アンチョビとキャベツ

坂本パルコの言葉のスキマには
痛みをかかえて
それでもまだ少しだけ笑える僕らがいる
笑ってみよう、何度でも
鈴木糸
鈴木糸

心の中で考える愉しいこと、
それは傷みさえかかえた愛おしい言葉。
青山なの
青山なの

星を見上げて
ひとりになってしまう

㐧一話

愛は簡単に壊れてしまう
飲み残しのあるコップ
カーテンの開け閉め
空調の温度・・・
そんなことで壊れてしまう愛は
愛とは呼ばない、と言うだろうか
でも私たちにはそれ以外の呼び方がわからなかった。

dolce vita

その甘さを
その甘さ故
長いあいだ嫌って
避けていた、その甘さに
冷たい肌寄せて女は今
愛していた、
身じろぎも
せず

B面で恋をして

サカモトとヤマモトの間には
深くて暗い淵がある
と思いきや
山本さん山本さん
呆けた女に一週間
一抹の悪意なく
そう呼ばれ続けた坂本は
山本も悪くないかもしれない
と思ったといふ
一週間後
山本という名すら亡失した
習うより慣れ
形あるもの皆壊れて
山のあなたの空遠く

㐧二話

あれは南阿佐ヶ谷に住んでいた頃だから
4年前の夏。
きみはとてもかわいいヒトだった。
クセっ毛みたいに毛先がハネた髪を横に流して
輪郭と表情をあらわにしていた。
長い睫毛の下にある切れ長の目で私を見下ろすとき
きみが私のものだと思うと
爪先まで息が届くような快感で捲りあがりそうだった。

珈琲屋のカウンター席
きみは決まって私の右に座る
きみは左利きだから二人の灰皿が一つで済むんだ
その一つの灰皿
それは絶対の愛情の象徴だったんだって
今は思う
そういうものにカタチを変えてしまった愛情が
今はホントウにうらやましいって。

窓には
夏の陽ざしと
その光を奪うように干された
きみの鎖骨が見えるTシャツ。
ベッドから見えるテレヴィの位置。
お香
煙草
ビイル
音楽
音楽に溶ける午後。
今、長岡で目を閉じてみても
あの光が
あの湿度が
きみが、いる。
あの日のきみは
ずっと笑ってた
私といて楽しそうに
ずっと笑っていたな。
傷つかないように針をそっと下ろして
今、長岡で、目を閉じてみる。
私は、もう一度、きみに会いたい。

ペーパードリップ

鶏。
三歩歩くと鶏は
たった今してたことすら忘れてしまう
言っときますけどね
アタシは歩かなくても
忘れてしまうことが出来るんですからね。
と私。
昨日何をしていたのか記憶していない。
人の名前を覚えることがない。
忘れたいことは決して忘れることができない。

あさ

どちらが先に逝くとも知らない朝
どちらが先に逝くでもない朝
南阿佐ヶ谷
台所の音が聞こえる

㐧三話(1)

私たちの生活
暮らし
日々
日常
冷蔵庫に入っている空に近いお茶の容器
お茶を沸かしながら
換気扇の下にお気に入りの椅子を置いて煙草を吸う
声に出さず
ヒステリックになるわけでもなく
声に出さない分
感情だけが
ただただ苦しい
きみが私の話す言葉を面倒くさく感じるのは
私のことを親だと思っているからだ
誰かがして呉れる
私はきみのオンナ親ではない
些細としかいえない雑然とした事柄
しかし、
私たちの日常はこうした事柄から成り立っている。
私は憎しみと言えそうな
やりきれない感情が
温もれず
そしてはぐれている
換気扇の音
きみのいる部屋
そして甘いソウルミュージック。

.xx

シックス
という言葉を見聞きすると
どうしたって
セックス
という言葉を押し付けられてしまう
というか一般に
シックス

セックス
とも言う。

二月二十二日

誰もいない夜の中
猫を被り
犬を騙し
猫になりたくて
鳴くんだよ
行き交う人の中
声を上げて
確かめたい
猫になりたい
猫になりたいな

㐧三話(2)

怠そうに言う君の発光する
深海魚のような欲望にうんざりして
スニーカー突っかけて外に出た
だなんて。

料理を作れば
片付けまでが料理だから
と食べている最中に言われるのが嫌だった
買い物に行けば
君が袋を詰め直す姿をただ眺めて
なにもできなくなるような気がしていた
三つ折りに畳むタオルと四つ折りに畳むタオルの違い
君の言うこと全てが
自分のこと、
互いの暮らしのことだと、
受け入れることができない
どこかきれいな円にならない君との暮らし
可哀そうな自分が好きなわけではないのに
とてもとてもさみしいのはどうして。

late summer

なつのそら
なつのうみ
なつのやま
ピーナッツのやま
ドーナッツのあな
猿には尻がある
褐色の女の尻
印象に残らない女の顔
忘れられない女の匂い
1日だけ憶えている夢
ブレンディ
ボトルコーヒー

サマンサはヘッポコダーリンを愛している

紙コップに注いだワインは
トイレットペーパーの味がするね
と隣りの男に耳打ちしたアケミと
それを理解し過ぎてしまったリチオが
肩を並べて座っているのが遠目に見えます
小さな紙のコップで
ワインを飲むような
味気ない満足に慣れてる
でも今はそれでいいみたい。
それならそれでおしあわせにね。

convey

目を細めると、
空より青い海が広がり青がどこまで続くのか判らないここには青を区切る稜線も水平線もなくあるとすれば所を塞ぐもしくはそこかしこに置かれたコンクリートブロックこの曖昧さは不快ではない。
流れる雲もなくただ匂いのする風景を眺めていた
海岸線はどこまでも続いている
海のある街には同じ海岸線が続いているという幻想
水平線の両手を真似た子供が
私の手のひらにかけ寄る。

㐧四話(1)

夜明けに仕事が終わり
からすに怯えながら家に帰る
夜と朝をくぐった消し忘れのヘッドライトの車がくる
過ぎていく風が落ち着いて
私は「すずしい」と笑いながら夏だった

部屋に帰ると煙草の残り香が在った
きみは部屋のどこでも煙草を吸うけれど
私はベランダで夜の空気を感じて吸う煙草や換気扇の下に椅子を置いて吸う煙草が好きだ
一緒に空を見上げて
狭いここで手をのばして
笑い合いながら
吸いたかったな
なんでこんなことを思ったのだろう
自分に何かを確実に言い聞かせたかったからだ
嗅覚からの記憶は鮮明だから

きみが開けたカーテンをもう一度引いて
ベッドに横になる
カーテンの透き間から
この街の朝が漏れてくる
きみの吸っていた煙草の残り香が
夏の朝に溶けていく
眠れない朝に出会った
いつかのきみの匂いだ。
点線で結んだ
いくつかの
恋と愛。

辻褄

ガジュマルが育つ。
プールに通う。
水に浸し過ぎる。
腐る。
似合わない服を買う。
別れた人とエスカレータですれ違う。
橋が開通する。
そのヒトを好きになる。

mémoire et odeur

男は
雨を心配するように空を見上げた
いいえ、コオヒイ屋でコオヒイを飲んだ
風の強い日だった
そうね、焼けたチイズの匂いがした
部屋へ帰って服を脱いだ
そういえば、女が居た
女の首に鼻を押し付けて
それから、においを嗅ぐ
男は

summer baby

男の華奢な指を
想っていた
熱電球が照らすものを
想っていた
夜を
想っていた
夏の浴衣を
想っていた
ねえねえ、
どうしてそんなに笑ってルの?

㐧四話(2)

化粧に夢中な君を見て
うたをつくるよ
何かにあやまる詩じゃなく
たのしい詩を
この頃の君
かたごしの君
覗くこともせずにいた
自分のことを何とかしようと
眠れない夜に出会った
あの日の匂いだ
楽チンで平凡な生活は
楽チンで平凡で
そんな言葉が似合う
そんなふうな生活がいい
吸い殻の数は正直だ
点線で結ばれた
いくつかの
問と解。

ヤブレ・カブレ

大事に育てるかなしみもある。
乱暴に壊すしあわせもある。
丹念に準備しておいたものよりも
にっちもさっちもいかなくなり
破れかぶれで出てきたものの方に
良いものがあったりする。

心空

あたりまえでしかいない私はあなたを目の前に
なにか言わずにおれないのに
私が何もいわないことで
あなたが救われるのならば
私は昨日食べたお魚の骨を思うことにしましょう
そんなことに思い及ぶにつけ
全ては無常なるかな、と
つくづく思います
秋ですね

あさ #2

いつものように
妻がトーストを食べている
最初にクリームチイズを齧りながら
最後にオレンジのピューレを乗せて食べる
眩しそうに外を眺めコーヒイを飲む
或る晴れた日曜の朝
偶然という名の日常

風船

風に耳打ちをされて行き先を決める
バス停で見知らぬ老人に話しかけられたので
ボサノバを出鱈目に歌い遣り過す
風が吹いているのがまるで嘘のようだ
其れ、
本当は嘘なんです。ワタシ、嘘つきました。
そういった穏やかで
晴れやかな気持ちでした
風のない日の長い一日。

last days

目玉焼きを半熟に焼くことになっていた
本当は生卵に味の素と薄口醤油を垂らして
食べたかったのに新鮮な卵がなかったから。
恐れていた。何を?
ある日台所にはフライパンも味の素も薄口醤油も無かった
女は卵を食べることを止めてしまった
失うものは何もなかった。

㐧五話

いつになくきみが笑ってくれるので
また戻っていけそうに思ってしまったよ
「別れよう」
きみはそう言った
平日夕方の蒸し暑い玄関で
やめるなら今だよ
きりだすのはきみの方だよ
やめるならイマ
しがみついていた
きみに
あの日に
きみは間違えずに離れた
二人は
愛の色を伸ばしながら通り抜けて
絵の具が切れたところで
佇んでいた
空と海を分ける
線のように
煙草を吸いにベランダへ出たら
今朝干した洗濯物がとりこまれていた。

フリ

知りたくなかった
その人の家はなかった
猫は居なかった
花粉は熟さなかった
蜂はこなかった
何も聞こえなかった
愛してる
と言ってください

アタシハルコ

残念ながら私は春子ではなかった
私は貴方の愛する春子ではありません
私は貴方のかつて愛した春子ではありません
春子は貴方を愛していない
春子はここに居りません
Apple IDは何ですか
暗証番号を入力して下さい
このLINEはつながっていません

或る日 #4

原稿の締切日をダイナミックに間違える
白い服にコーヒーを沫ばす
イルミネーションの狂想曲ラプソディ
高架下のセレナーデ
水たまりのワルツ
真夜中の組曲
街にはいつも音楽が流れ
今日を歌って
透明な色でつつんで

音色

きこえるかな
からすたちが空の色を変えているのが
きこえるかな
その匂いの前にはあざやかがいるのが
色には音がない
だけど
私の言葉に聴いてる

㐧六話

かまわず部屋を出るきみを
追いかけずに私はただ目を塞いで
もう一度
私が玄関を開けてさ
「ただいま」って言ったら
あの日のように笑ってくれる?
私は玄関でひっくり返ったまま
声を出すかわりに顔をぐしゃぐしゃにゆがませて泣いた
耳と髪の間に流れこむ
その温度になぞられて
私は今に返る。

2番目の罪

何がいちばん良いかなど
誰に分かるものでもなく
誰にでも分かるもので
誰にも分かるものではなく
本当はいつものソファの上
本を読みながら半裸で
つるりと横たわっている
体が千切れるほど愛したアナタをふと思い出すように
この景色と一緒にアナタが居ないのも
幸せの一つなのでしょうか

みかづき

三日月よ
めがねを外せば
おぼろ月

坂本パルコ 7才

どこドア

ひとつのたんすが落ちている
それはまだ固くて青い
防虫剤のにおいがした
国産だろうと思う
端正な角に
かつん
足の小指を当ててみると
知らない感触に驚いた
たんすは失くなった
それは林檎ではない
幼少の頃
たんすを開ける度にいつも身構えていた

6月13日のバラード

頭の中に
フランス人が棲みついて
電話がかかってきても
もしもし
という言葉よりも
アロー?
と返事をしたり
ウィ
だの
ノン
だの好き勝手に言うので
このフランス人を
ネージュ
と呼ぶことにした。
それはまだみえない
透明な雪のようで
私の頭の隅には小さな花が
何も言わずに咲いていた。

㐧七話

涙が流れていた
4年前の最期と変わらず
たくさんたくさん涙が出た。
下ろした針は
サニーデイ・サービスの「苺畑でつかまえて」
を流していた。
今耳にするこの歌の中には
恋をしている私なんていなかった
あの頃
聞いたときには
ただ、ただ
等身大の私がいた。
いたんだよ。
適当に笑って生きていた過去なんてないから

涙が溢れるのを止めることができないから
ごまかすための道具も逃げ場所も持っていないから
今すぐにここで立ちあがることなんてできないから
ー今、雨が降りそう

タイムライン

前髪の長い一団の男がいて
莫迦げた言葉と
卑しげな弥次と
を止めどなく垂れ流した
それらの言葉は
どこかの政治家に似
ごろつきに似
またどこかの縁日の的屋に似ていた
それは詩でも文章ですらない
ただの文字列
読む目も聞く耳もいらない。

YOU MADE ME REALISE

死ぬまで働いたことがあるか
漢方を口いっぱいに含んだことはあるか
アイシタヒトに棄てられたことはあるか
死ぬために服ったことはあるか
立ち去る前の菓子折は重かったか。
間違えて冷水のシャワーを被った時は
死ぬかと思いましたが
今はこうして生きています
一度死んだら二度は死にません。

だれも知らないこんな場所で
永遠の翼を信じてる

アンチョビとキャベツ

空と海
月と太陽
日常と映画
秋桜と春蜜柑
もやしと根ひげ
長岡と南阿佐ヶ谷
野に咲くのは花と夢
アンチョビとキャベツ
ズッキーニとゴーヤ
南瓜とマヨネーズ
あなたとわたし
そこがふたりの
はじまりの場所
かなしかるらん
結末を知らない
きみとわたしは
愛しあい
感じあい
眠りあう

最終話

きみは或る日
生ハムをのせた
アンチョビとキャベツのパスタが食べたい
と言って
その日
生ハムはのせれなかったけれど
(唐辛子とニンニクは刻んだっけ)
ふたりでそれを作って食べたとき
それが想像した通りの味で
きみはうれしそうに笑っていたね
ずっとそんな毎日が続くと思っていたんだ
そのときはいつか未来から
現在という過去を振り返ることができたら
どんなに仕合わせだろうか
そんな馬鹿げたことを本気で思っていた。
昔も
同じキモチを告げた
ふたりが居たはず。
ひとりでもこわいくらいに私は平気
私はもう一度
目を閉じて
胸の中にしまった季節を綴じ合った。
私たちの生活
暮らし
日々
日常
あっというまに過ぎ去ってしまうのは
それは魔法ではない
それは夢ではない
それはほんの些細なことで濁り、
壊れてしまった。
あのとき私たちは
どこまで離れたのかな
いつものことだと
どこかになかったかな
煙草を吸いにベランダに出る
夜の澄んだ空気が頬を乾かしていく

月を見上げて繋がっている
いつもそんな声が
輝くんだ

エピローグ - 追想の主題 -

こんな場所に挟んでいたなんて思わなかった
あのとき書いた詩を拾って
荷物の上に座った

僕らはいつも不自由な恋をして笑っている
退屈なおしゃべりも数えよう
いつかはこの自由な愛の中
踊れるよう
大切な靴を持っている
愛しいものばかりの
この世界を前に跪く
夏の終わりの海の色は
僕らのかなしみによく似ている
あなたはきっと
笑うでしょう


ーSunny Day Service 「甲州街道の十二月」より

明日この部屋を出ることになったんだ
積み残していくあの頃に
あやまった
手を止めて
眺めてる
この詩にも
ひとつひとつあやまった
もう無理のないこの部屋に
雲はちょっと目くばせして
ゆっくりと
月灯りが降りてくる。

「あなたに会えて、嬉しいです」

アンチョビとキャベツインタビュー

テキスト=敦子 撮影=hana

今から1年前、坂本パルコと名のるひとりの詩人がインターネット上で、物語と詩を交互に公開するという新しい表現活動を始めました。
それはいつしか小さな話題を集め、ついにウェブサイトは月に1万PVを超え、今年の2月、『アンチョビとキャベツ』というタイトルの2冊目の物語が始まりました。

ーまず、今回「アンチョビとキャベツ」を制作されたきっかけを教えてください。

坂本1月の上旬に朝日新聞から詩人として取材を受けました。その時に「今後の創作活動について」という質問があって・・・何もしていなかったから(笑)そしてある人から「秋桜」という言葉を聞いた時に、「春蜜柑」という言葉がすぐに出てきたんです。「秋桜と春蜜柑」。つがいのような言葉を書き連ねました。書いていくとそれはもう言葉ではなく「想い」に変わっていって、それで書きっぱなしにしていた「アンチョビとキャベツ」のことを思い出したんです。

ー朝日新聞社からの取材がなければ制作予定はなかったということですか?

坂本はい、書くこと自体辞めようかと思っていました。

ー絶妙なタイミングで取材があって本当によかったです。では今回のテーマについて伺いたいのですが。

坂本愛だの恋だのです。

ーもっと具体的に説明していただけますか?

坂本(暫しの沈黙)時について話をしよう。時は去り、愛は残る。本当にそうだといえるか? ・・・でしょうか。

ー前作の「日曜日にカゼをひく」(以下「前作」)では連続する日常の孤独を描かれていましたよね、今回は登場人物が二人いるということで、その関係性に触れたタイトルなのかな、と最初は感じたのですけれど。

坂本そう、二人いるんです。世の中には、良い人、悪い人、良くも悪くもない人、良くも悪くもある人・・・色々な人がいます。不寛容さと思いやりは完全に同居し得る。というよりも、それらが同居していない人間などどこにもいない。でも未来から現在を振り返ったときに、過ぎていった日常への諦めも一緒に描きたかったんです。 前作もそうなのですが、作り話を伝えてもしようがない、だから、主人公の気持ちや心の動きはほとんど自分の体験。前作は20代半ばの私を元にしているんです。そして「アンチョビとキャベツ」はそれ以降の私を元に。

ーだからでしょうか。坂本さんの描く物語は心や感情にそっと嵌るんです。

坂本それは人としてだめです、よくない(笑)

ー薄々感づいていたのですが、前作と今作の主人公は同一人物ですか?

坂本そうなりますね。

ーすごく背景が視えてきました!新潟から東京に上京して・・・繋がりました!

坂本そうなんです。

坂本さん自身は過去の恋愛を思い出したりしますか?

坂本全くしないですね。でも当時聴いていた音楽が流れたり、恋人の吸っていた煙草と同じ銘柄の匂いがしたりするとムワッて思い出しますね。

ー作中でも「私」がレコードを流しながら思い出していますよね。

坂本プロット段階ではそういう現在から過去を見上げる描写は一切なかったんです。本当に擦れ合う二人がいて、玄関で別れて終わり、という話だったので。

ーということは今回加筆しているうちに内包しているテーマは変わっていったんですか?

坂本骨子になっている部分は変わりませんでした。加筆した後に削った部分も多かったので。

ー坂本さん自身は「私」と「きみ」どちらに近いですか?

坂本どっちもです。

ーでは文体について聞かせてください。前作の散文詩的な物語から「アンチョビとキャベツ」では一気に散文に寄りましたよね。

坂本今回物語を書く上で自分の文体を棄てました。詩的なものに寄せる、という考えも最初からありませんでした。二人の感情に焦点を当てて書いた結果、まとまりのない文章になったということは自分でも感じています。逆に言うと、前作は隙がないくらい私的には完成されたものだったと思っています。書きたいことことがうまく書けないことがありますよね?それは書きたいということが全くの個人的なことだからなんです。今回は試行錯誤の連続でした。メッセージ性を持たせたつもりはありません。ただ、こういう二人がいた、くらいに思ってくれればいいんです。

ー結局何が言いたかった、ではなく、二人のひとつひとつの感情や思いが現れた何気ない所作に気づかされることが多かったです。そこに心が動かされました。

坂本そこを見てくれると助かります。私が描きたかったのは、きっと、そういう日常に溶け込んでしまった愛情の象徴だったのかもしれません。

ー今気づきました。第一話で挙げられていることは全部、愛情の象徴の裏返しなんですね。

坂本そうなんです。

ー作中に出てくる「匂い」「音楽」「夜空」が物語を包むキーワードとして存在していましたが意図したものですか?

坂本そうですね。夜空に関しては最初からスタートとゴール地点として自分の中で決めて書いていました。それと「月」には重要な役目として絶対に出したかったんです。

ー「アンチョビとキャベツ」内に掲載されている詩は、より一層ユーモアが強くなっている印象を受けました。

坂本やはり言葉の限界を越えるにはユーモアが必要だと常日頃思っています。詩にメッセージを乗せるとそれはもう詩である意味がないような気がするので。

ー私は詩というものを凄くハイカルチャーなものだと認識していたのですが坂本さんの詩と出会って以来認識が変わりました。そしてそれ以上に、坂本さんの詩を読み進める上で詩の内容より強く、それを書いている"坂本パルコ"という人物そのものに魅かれていく自分がいました。

坂本昔、お酒の席で文筆業をしている女性に言われたんです。「アナタ、書くからには読者から筆者とヤリたいと思わせるような文章を書きなさい、槍鯛と」って(笑)今でも心に残っています。

ーそして詩の中に「アンチョビとキャベツ」というタイトルと同じものがありますよね?それが先ほど言われた言葉を書き連ねたものになりますか?

坂本はい、今回唯一書き下ろした詩です。

ー言葉遊びから坂本さんの言われた「想い」に変わっていく、今作の中で一番印象に残る一遍でした。

坂本書き終わった時に、涙が出てきて・・・すごく震えたんです。

ーきっと私が感じた以上に書き手の坂本さんには、並並ならぬ想いがあったのでしょうね。

坂本そうなんです。

ーでは次に「アンチョビとキャベツ」のウェブサイトについて聞かせてください。

坂本今回は坂本パルコのサイトから独立したものにしようと最初から決めていました。スマートフォンやタブレットで読まれることを想定した作りになっています。頁をめくるエフェクトやタブレットの横表示では、より紙の詩集に近いレイアウトになるよう心掛けました。スワイプでも頁をめくれるんですよ、実は。暴発しやすかったので判定を厳しくしていますけれど。

ー毎週金曜日が更新日でしたが、前日の木曜日まで書いていたというのは本当ですか?

坂本本当です。ほんの一行二行があるかないかの世界ですけれど、短い物語の中の一行二行というのは、その話の印象を大きく変えるんです。どうしても最後まで読んで欲しかったので、途中離脱されないよう、袖を引っ張る意味も込めて(笑)

ー校了を決める人がいないとこういうことになるんですね、坂本さんは(笑)

坂本今回は一人でしたからねぇ

ー今回は「アンチョビとキャベツ」をお題にした詩の募集はしないんですか?

坂本きっと集まらないから、しません(笑)コンタクトフォームやTwitterのDMで送っていただければ、もしかしたら掲載するかもしれません。そうですね、うん、やっぱり読みたいのかも。

ー前作では32篇の詩が集まりましたよね。もし書かれる方がいたらどんな捉え方をするのか私も楽しみです。では、今後の活動についてお話しいただけますか?

坂本私の詩のみせ方として "一つの完結を見た" と感じています。なのでまた、インプットの時期を過ごそうと思います。スケボーをやってみたいんですよね。東京にも行きたいし。会いたい人にも会いたい。詩のことばかり考えている生活は、したくないんです。インプットがなければ、アウトプットはありえませんよね。だから美味しいものを食べてインプットしたいなあ、って。

ー確かに。インプットをしていない人の作るものって、綺麗に纏まっているだけのものな気がします。心は動かない。

坂本そう、だから美味しいものを食べること。リサーチしてレストラン予約して道調べて初めての店で美味しそうなものをメニューから選んで、そして食べる。これが最大のインプット。もちろん何かお誘いを頂けるのであれば受けようと思っています。

ーなるほど(笑)では、最後に読者の皆様に一言お願いします。

坂本最後に、ここまでお付き合い頂いたいつも私を支えて好いて呉れる皆さんに、記して感謝します。

二◯二◯年 三月

坂本パルコ

坂本パルコ(さかもとぱるこ):1985年生まれ。詩人・ウェブデザイナー。作品集に「syaco」、ウェブ詩集「日曜日にカゼをひく」、「実家に、帰ります。」がある。愛人変人友人委細面談。 座右の銘:やはり私は楽をして生きていたいのだ

アンチョビとキャベツ

  • 著者
  • 坂本パルコ
  • 題字
  • 凜子
  • 帯文
  • 青山なの
    鈴木糸
  • Special Thanks
  • アダチマコト
    アッコ
    紫闇
    どこなに
    ペコリーナ
    yamai
    Rie(ぽん)
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